美食の街、サン・セバスチャンについて調べてみた
みなさんは、ガイドブックの世界的権威であるミシュランガイド(2019年)で星を一番獲得している都市はどこかご存知ですか?
正解は、日本の東京です。
星を獲得した飲食店の軒数は、なんと!226軒!
これは他の世界の都市の獲得数を圧倒した数値となっていて、東京の他に京都や大阪も星の獲得数は非常に多いことから、日本は正に世界に誇れる美食の国といっても過言ではないでしょう。
ただ、日本が美食の国だ、東京は美食の都市だといわれていても、世界的に美食の街といわれているところがあります。
それは、サン・セバスチャンという街です。
飲食の世界にあまり詳しくない方であれば
え?どこ!?と、思ってしまうような聴き慣れない地名ですよね。
しかしこのサン・セバスチャンを調べてみると
「なるほど、これは美食の街っていわれるわけだわ」と納得してしまいました…!
そこで今回は、美食の街であるサン・セバスチャンについて詳しくお話しさせていただきます。
サン・セバスチャンとは
美食の街、サン・セバスチャン(発音的にサン・セバスティアンともいいます)はスペインにあります。
正式名称は、ドノスティア=サン・セバスチャン(Donostia-San Sebastián)といい、二つの言葉をつなげたものとなっていて、キリスト教の聖人の「聖セバスチャン」が由来となっています。
場所でいうとスペインの北部、バスク州ギプスコア県に位置しています。
ここの位置は隣の国のフランスまでは20km先と、非常に近いところにあります。
また、コンチャ湾という海にも面していて、美しいビーチとして世界的にも有名です。
面積は60.89km²と非常に小さい土地で、人口は2018年調査では186,700人です。
日本でサン・セバスチャンと同じくらいの面積の都市は、千葉県松戸市や大阪府の東大阪市などが入りますが、いずれも約49万〜50万人ほどの人口となるので、いかに人口が少ないかもわかります。
美食の街については後述でお話ししますが、食以外も素晴らしい文化シーンがあり、「ストリート・シネマ」という国際的な視聴覚フェスがあったり、国際映画祭や、世界的な花火大会が開催されたりと、主要な経済活動のひとつとして観光業があります。
スポーツでは、サッカーやバスケットボール、ラグビーユニオン、自転車などが盛んです。
とくにサッカーはリーガ・エスパニョーラのチーム、レアル・ソシエダのホームスタジアムのエスタディオ・アノエタがあります。
近年は下位が続いているチームではありますが、昔の選手でいうとルイス・アルコナーダ、最近でいうとシャビ・アロンソがレアル・ソシエダの下部出身でした。
なぜサン・セバスチャンは美食の街といわれているのか?
さぁ、ここからが本題です。
前述ではサン・セバスチャンについての概要をお話ししました。
では、なぜサン・セバスチャンが世界一の美食の街といわれるようになったのか?
調べていくと、そういわれるさまざまな理由がわかりましたので、順にお話しいたします。
平方メートルあたりのミシュラン星の獲得数で1位になっている
これが、1番に挙げられる理由のひとつかと思います。
人口一人当たりの星の数、ともいわれていますが、非常に小さい土地で人口も18万人しかいないとなると、星の獲得数はダントツの1位です。
たしかに、サン・セバスチャンと比べてしまえば人口の多い東京や大阪、京都は星の獲得が多くなるのも必然なのでしょうか(とはいうものの獲得すること自体がすごいことなのですが)。
また、キムタク主演で人気ドラマだった「グランメゾン東京」に出てきたTOPレストラン50のモデルとなった「世界のベストレストラン50」にも、サン・セバスチャンの飲食店は常連となっています。
実際の世界のベストレストラン50とは、世界中のシェフや飲食店の経営者など600人のフーディー達が業態や国に問わず、それぞれ10軒ずつ選んだものを集計して発表したものです。
たしかに、ミシュランのように権威を持っているわけでもなく、一般的に知られていないもので、作中ではミシュランの前哨戦の扱いを受けていました。
しかし、一部のフーディーからは「ベストレストラン50で選ばれたお店の方がミシュラン用に点数稼ぎをやっているお店よりよっぽど信憑性がある」との声も挙がることも少なくありません。
だからこそミシュランで星を獲得しつつ、世界のフーディにも高い評価を受けているからこそ「美食の街」と呼ばれているのかもしれません。
飲食店では弟子制度をとっていない
日本の飲食業界、料理の世界でも色濃く残っている、伝統的な師弟の関係。
皿洗い・店の掃除・鍋磨きから始まって、料理の技術は目で盗め…と、長い修行を積んでようやく一人前になる。
これが当たり前になっているところがほとんどですよね。
これは日本に限ったことではなく、世界でもそういったところが多いのは事実です。
しかし、サン・セバスチャンでは伝統的な味を覚えるのに何年もかかってしまう、新しいことを始めるには修行を終えてからでないといけない、ということに危惧して、弟子制度を廃止したのです。
弟子制度の廃止の内容で、特に驚くべき点として「レシピ・調理法の共有化」にあります。
この共有化により、新米・若手の料理人でも技術はまだ追いつかなくても、レシピをみながら作ることができるのです。
さらにそこから、自分なりのやり方や新しいメニューが出てくる可能性が生まれるのです。
また、レシピ・調理法の共有化は弟子制度の廃止以外にも飲食店に大きな影響を与えました。
たとえば、どこかの飲食店が「オリジナルの料理ができた!これは売れるぞ!」となれば、そのお店は差別化をしたいと思い、絶対他のお店にレシピを教えることはないでしょう。
あくどくもありません。これが一般的な考え方ともいっていいでしょう。
しかし独占には限界があります。そのままではいつかは廃れてしまいます。
そこで、サンセバスチャンではそういったことも無くして惜しげもなく公開したことにより、若手でスキルの高い料理人、新しいスペイン料理も誕生して食のレベルがどんどん上がっていったのです。
また、レシピ・調理法の共有化の延長になりますが、ある料理人が世界を旅行、あるいは違う料理の修行をして帰ってきたら、その技術やレシピもみんなに共有されるのです。
こうして、他の国の調理法や技術・レシピなどを取り入れることでサン・セバスチャンは美食の街として更なる進化を遂げたのです。
本当の地産地消で、ここでしか食べられない料理がある
「地産地消」という言葉をみなさんはご存知でしょうか?
これは地域生産・地域消費の略語で、意味は言葉の通り、地元で取れた・作ったものを地元で消費することをいいます。
しかし、一般的な先進国の地産地消とは一次産業の不振もあるので他の地域も入ってしまうケースがあります。
また、国によっては地域を広い意味で捉えて地産地消を謳っているところもあります。
そのなかでサン・セバスチャンでは、「本当の」地産地消をモットーに料理を作っています。
「本当の」地産地消とよばれる所以ですが、それはサン・セバスチャンの地形にあります。
サン・セバスチャンは山・川・海と自然に恵まれているので、食材が豊富にあるのです。
また、前述で話したレシピ・調理法の共有に似たものになりますが、ここでも技術の共有などがあり、漁業・酪農・農業全てにおいて質の高い生産を続けています。
そのため、料理はサン・セバスチャン産の食材で作られるため、他の国が全く同じ調理法・レシピで作っても同じ味は出せないのです。
つまり、サン・セバスチャンで作られる料理はサン・セバスチャンでしか食べられないオリジナルのものがあるからこそ、美食の街とよばれる所以といえるでしょう。
美食倶楽部の存在
美食倶楽部と聞くと、美味しんぼで海原雄山が設立したものでは?と思う方もいるのではないでしょうか?
ちなみに作中での美食倶楽部は、海原雄山のモデルになったとされる芸術家、北大路魯山人が設立した会員制食堂「美食倶楽部」がもとになっているといわれています。
もちろん、サン・セバスチャンの美食倶楽部は似て非なるものです。
サン・セバスチャンの美食倶楽部は一言でいうと、「料理サークル」です。
女子禁制(今はそうではないようです)で、自由に料理をして、食事をして、食について語り合う活動をしています。
これだけ聞いてしまうと、「美食の街」といわれる理由のひとつなのか?と思う方もいらっしゃるでしょう。
しかし、この美食倶楽部はみなさんがイメージするような単なるサークルではなく、会員の紹介がないと入れなかったり、入会金(高いと30万円以上!)や年会費(高いと6万円以上!)がかかる倶楽部が100以上もあり、設立されてから200年以上立っている歴史ある倶楽部も存在します。
貢献の例を挙げると、現代のスペインでのバルは「ピンチョス」という小皿料理が食のスタイルとなっていますが、このスペインバルの先駆はサン・セバスチャンで、美食倶楽部が大きく関わっているといわれています。
こういった美食倶楽部が中心となり、街全体で食文化の蓄積が始まったのです。
つまり、美食の街と呼ばれるまでの第一歩といえるでしょう。
ハイレベルな料理学校・料理大学がある
いやいや、日本にも調理師専門学校が多いし、レベルだって高いはずだ!と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
日本の調理師専門学校での学ぶ期間は、1年制〜2年制が一般的です。
一方、サン・セバスチャンには世界でも珍しい4年制の料理大学「バスク・クリナリー・センター」があります。
設立には、世界的に有名なシェフや日本の調理師専門学校でも有名な「服部栄養専門学校」を設立した服部幸應氏も携わっています。
そこで一流の講師や現役シェフのレクチャーによって、非常にレベルの高い研究や栄養学、教育を学んでいくことができて、一流の料理人を輩出していきます。
また、サン・セバスチャンにはもうひとつの料理学校、「ルイス・イリサール料理学校」があります。
ここは各学年28人までという非常に少ない人数しか受入れないのが特徴です。
※服部栄養専門学校、武蔵野調理師専門学校では各学年では約300〜450人ほど在学しています。
この少人数制度により、講師ともマンツーマンで教えてもらうこともできます。
さらに、入学してすぐに地元の飲食店やホテルのレストランでたくさんの経験を積むことできて、前述で話した「レシピ・調理法の共有」のおかげで、どんどん学んでいくことができるのです。
また、料理コンクールが料理の種類ごとで頻繁におこなわれているので、競う合う環境や自身のモチベーション向上につながる環境があります。
こうした教育環境もサン・セバスチャンには整っているので、若手のスターシェフが生まれるのも納得ですね。
料理を科学的に究明していき、新しい調理法を取り入れてきた
液体窒素やエスプーマ、人口いくらといった科学の力を使った調理法の総称を「分子ガストロノミー」といいますが、こうした調理法はサン・セバスチャンがはじまりとされています。
もともと料理の歴史は勘、カッコよくいうとインスピレーション、そして経験によって新しいものが生まれてきました。
そのなかで、サン・セバスチャンは科学的に料理を究明していき、今では見かけられるようになりましたが、当時としては画期的な調理法をどんどん開発していったのです。
中でも凝固剤を使った新しい調理法は好きな形状で調理ができて、新しい食感を生み出すことに成功して、世界を驚かせたといいます。
こうして、料理を様々な角度から研究していくことにより、新しい調理法を創造して、みたことも食べたこともない料理をつくることで、世界のフーディを楽しませてくれるのです。
まとめ
いかがでしたか?
今回は美食の街、サン・セバスチャンについてお話しさせていただきました。
どうして美食の街としていわれているか、理由がわかったかなと思います。
サン・セバスチャンは小さな街ではありますが、「食」の力で世界的に有名な街となりました。
そして世界では、このサン・セバスチャンのように「食」の力で街づくりをしようとしている企業や飲食店も少なくはありません。
もちろん、日本でもそういった目標を掲げているところもいます。
日本のある地域で飲食店を経営する企業があります。
その企業の社長はサン・セバスチャンへ行った際に、
育った地元と変わらない規模でこんなに素晴らしい街になっている。
なのに自分は、地元で何も力になれていないじゃないか…。
と、感じたそうです。
そこで、自分が育った街に恩返しがしたい、もっともっとこの街を「食」の力で豊かにしていきたいという思いが強くなり、地元のエリアでのみ飲食店を経営して、その街に活気を与えてきました。
そして、今ではその企業発信で3万人もの人が参加するフードフェスまで開くまでになり、「食」の力でその街に大きく貢献しているのです。
こんな事例は日本だけでなく世界にもあると思いますが、「食」の力は街を変えることができるすごい力を持っているのです。
サン・セバスチャンを例に挙げていますが、売り上げ達成!というような現実的な目標を掲げているだけではなく、街に貢献していきたい!、お客さんの笑顔のために!というような地域貢献を理念にしている企業で働きたいとは思いませんか?
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著者プロフィール
小学6年生の時に某テレビ番組の取材で有名ホテル総料理長に出会い食の世界に魅了されて、中学2年生の時に海外派遣団に参加。シンガポール及びマレーシアへ訪れた際に海外の食を知る。高校1年生から単身カナダへ渡り世界の食に触れ、帰国後は飲食人としての人生をスタート。複数の飲食店でのアルバイトを経験し、新卒で居酒屋リーディングカンパニーの人事労務に勤める。上場及び未上場の飲食企業複数社にて、人事、新卒及び中途採用、教育、経営企画、株式上場などの責任者(部長・局長)を歴任。面接人数は8,000名以上、各専門学校にて就職ガイダンスの外部講師として講演活動も積極的に行っている。
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